CINÉMONO(シネモノガタリ)第十九話「グランド・ブダペスト・ホテル」

CINÉMONO(シネモノガタリ)第十九話「グランド・ブダペスト・ホテル」

 アンナとリュカは、Mendl'sのコーテザン・オ・ショコラを買うため、ズブロフカ共和国へ出かけることにした。映画『グランド・ブダペスト・ホテル』の舞台となった架空の国。

 「せっかくグランド・ブダペスト・ホテルに行くなら、パステルカラーで行こう」アンナはそう考えて、青いストライプのドレスに黄色のメッシュバッグ、そしてピンクのスニーカーで出かけることにした。対してリュカは、黒いジャケット、黒いパンツ、黒い靴。アンナは隣を歩きながら、ちらちらと彼を見ていた。

 やがてアンナは、ぴたりと足を止めた。「ねえ、リュカ」振り返った彼を、上から下まで眺める。「グランド・ブダペスト・ホテルに行くのに、なんで黒なの?」リュカは自分の服を見下ろした。「え?いつも通りなんだけど」「う〜ん、この国は、いつもとはちょっと違うの」アンナは笑いながら、マーケットの花屋へ走っていった。

 紫、黄色、白、オレンジ、ピンク。アンナは色とりどりの花を両腕いっぱいに抱えて戻ってきた。「ちょっと、じっとしてて」そう言ってリュカの背後へ回る。黒いジャケットの背面には、大きなポケットがあった。そこへ紫の花を一本。「ひとつ」黄色をもう一本。「ふたつ」白、オレンジ、ピンク。「みっつ、よっつ……まだまだ」花は次々とポケットに差し込まれていく。

 「アンナ、何本入れるつもり?」リュカが振り返ろうとすると、「だめ、じっとしてて」とアンナ。「だって、せっかくのズブロフカ共和国だよ」気づけば、黒いジャケットの背中から花が咲いていた。リュカが少し肩を動かすたび、色が揺れる。「これでこの街を歩ける」「郷に入っては郷に従えってやつだね」アンナは満足そうに笑った。

 そのまま二人はMendl’sへ向かった。ショーケースには、チョコレートとシュー生地を重ねたコーテザン・オ・ショコラが、小さな宝石のように並んでいる。「美味しそう!」アンナは目を輝かせ、箱を受け取ると、当然のようにリュカへ渡した。「はい、これも持って」花でいっぱいの背中に、Mendl’sのピンクの箱。

 鮮やかな街の中を、二人は並んで歩いた。パステルカラーのアンナと、花を背負った黒ずくめのリュカ。すれ違う人たちの視線を感じるたび、リュカは少しだけ気まずそうな顔をした。それでも、隣で嬉しそうに笑うアンナを見ると、花を一本も抜くことはしなかった。ズブロフカ共和国のどこかで、今日も二人だけの映画が続いていた。

▼ この物語に登場する映画
『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年/監督:ウェス・アンダーソン)

※ 現実にある出来事や映画、モノゴトから生まれた架空の物語です。物語とともに、お店の世界観や登場人物たちのコーディネートもあわせてお楽しみください。

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Anna(アンナ)コーディネート
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