CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十四話「オリーブの樹は呼んでいる」

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CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十四話「オリーブの樹は呼んでいる」
CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十四話「オリーブの樹は呼んでいる」

 オリーブの林をぬけて、アンナとリュカは店に着いた。午後の光が葉の隙間からこぼれ、乾いた土の匂いに混じって、どこか遠くの海の気配がした。店内では、理容師のリバーを、オリーブ色のシャツとオリーブドラブのパンツを着た店主が迎えていた。

 リバーは、生まれて初めてスカートを試着していた。ジャンパースカートの色もオリーブ。鏡の前に棒立ちになり、映った自分をじっと見つめている。いつもの自分とは少し違って見える。けれど、それが「違う」のか、「本当はこうなのか」は、まだわからない。「ほんとうはどうなの?」。鏡の中の自分が、何かを知っているような顔をしていた。

 店主は、店を始めた頃の話をした。運営資金のため、私財のほとんどを売ったという。なかでも音楽機材を手放した日は、魂まで売ってしまったような気がした。「暮らすために、自分の過去を切り売りすることって、あるんだよ」。リバーは鏡を見つめ、「じゃあ、売ったものは、いつか買い戻せる?」と聞いた。店主は首を振り、ふいに何かに気づいたように言った。「何かの偶然で、失ったものが戻ってきたとしても……魂までは、戻ってこないよ」。

 リバーは来週から、理容室を休みにしてバンドのツアーに出るという。スペインのバルセロナからドイツへ。ジャンパースカートを脱いで丁寧に畳み、「やっぱり、スカートはやめとく。わたしじゃない気がする」と言った。店主は微笑み、「また着たくなったら、いつでもおいで」と答えた。

 リュカと店主はいま、店内で流す音楽をつくっている。昔の音を再現するのではなく、残った記憶を素材に、今感じた音を奏でる。アンナは二千年のオリーブの樹を思った。根を切られた樹が元の場所へ戻っても、失われた時間までは戻らない。それでも、残された根から新しい枝は伸びるのかもしれない。

 「なんだか、映画『オリーブの樹は呼んでいる』みたい」とアンナが言った。失ったものを取り戻すことだけが、再生ではない。戻らないものを抱えたまま、新しい場所で、新しい関係を育てていく。二千年の樹を切り倒して運び、そこにあった歴史や文化まで、飾りのように持っていくこと。環境への配慮を掲げながら、オリーブをただのインテリアとして消費すること。それは、過去を大切にすることとは少し違うのではないか。

 「心が失われるのかな」と、リバーは畳んだジャンパースカートを、迷いながら、答えの見つからないまま見つめていた。

▼ この物語に登場する映画
『オリーブの樹は呼んでいる』(2016年/監督:イシアル・ボジャイン)

※ 現実にある出来事や映画、モノゴトから生まれた架空の物語です。物語とともに、お店の世界観や登場人物たちのコーディネートもあわせてお楽しみください。

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