CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十二話「ムード・インディゴ」

Anna(アンナ)コーディネート
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CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十二話「ムード・インディゴ」
CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十二話「ムード・インディゴ」

 「Dr.スランプ アラレちゃん?」リュカが、アンナの頭から足元までを眺めて言った。インディゴのスモックシャツに、インディゴのデニム。前髪を垂らし、ワッペン付きのパステルカラーのトラッカーキャップを合わせている。「違うよ、ムード・インディゴだよ」とアンナは答えた。

 アンナは袖口をつまんで、少しだけ腕を広げた。「ムード・インディゴって、どんな気分なんだろうね」。「泡(うたかた)のような儚さ、かな」。そう言ってアンナは歩き始めた。いつもの棚も、窓から見える景色も変わらない。でも、同じものがいつも同じように見えるとは限らない。

 リュカがデューク・エリントンを流す。「音楽をかけて、気分上げよう」。軽やかなピアノと管楽器が店に広がり、アンナも音に合わせて身体を揺らした。理由はなくても、音楽には気持ちを持ち上げてくれる力がある。

 曲が終わると、次の曲までの沈黙が妙に長く感じられた。アンナは窓の外を眺めていた。何も悪いことをしていないのに、突然なくなってしまうものがある。好きだった人や場所、昨日まで当たり前だった時間。なくなったことより、そのあとに残るもののほうが厄介なのかもしれない。何でもなかった場所でふいに思い出したり、聞き慣れた曲が、もう以前と同じようには聴こえなくなったりする。

 「痛みって、そういうところに残るのかもしれないね」。リュカの言葉に、アンナは黙って頷いた。時間が経てば消えると思っていた痛みも、消えるというより、少しずつ形を変えていくのかもしれない。失ったものは戻らない。それでも、失ったという事実だけが残るわけではない。

 やがて、デューク・エリントンの曲が静かに流れ始めた。さっきまで軽やかに聞こえていた音が、今度は少し遠く感じられる。同じ曲なのに、別の曲のようだった。アンナはインディゴの袖を見た。さっきまで好きだった青が、今は少しだけ寂しく見える。それでも、嫌いにはならなかった。世界は変わってしまう。無邪気に笑っていられた時間も、好きだったものも、いつか失われる。それは理不尽で、時には痛い。それでも、その痛みまで含めて、過ぎていった時間は自分の中に残っていく。

 「もう一曲、聴こう」。アンナがそう言うと、リュカは音量を少し上げた。店の中にデューク・エリントンの音が広がる。窓の外では、夕方の光が街の輪郭を変えていた。青い服を着たアンナは、しばらくその場に立っていた。世界は元には戻らない。それでも、曲が終わったあとに残る余韻のように、なくならないものもある気がした。

▼ この物語に登場する映画
『ムード・インディゴ うたかたの日々』(2013年/監督:ミシェル・ゴンドリー)

※ 現実にある出来事や映画、モノゴトから生まれた架空の物語です。物語とともに、お店の世界観や登場人物たちのコーディネートもあわせてお楽しみください。

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