CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十一話「大人は判ってくれない」

Lucas(リュカ)コーディネート
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CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十一話「大人は判ってくれない」
CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十一話「大人は判ってくれない」

 リュカはひとり、海岸線を歩いていた。波が寄せては引き、濡れた砂に残る足跡を静かに消していく。隣には誰もいない。それでも彼は、少し先の未来にいる店主へ話しかけるように、独り言を続けていた。「ねえ、二十年後のあなたは、まだこのシャツを着ているのかな」。新品のモールスキンは、夕暮れの光を吸い込み、濃い黒の中にわずかな光沢を浮かべている。まだ何も刻まれていない、生まれたばかりの服だった。

 「僕は、これからどこへ行けばいいんだろう」。リュカは歩みを止めずに言った。映画『大人は判ってくれない』の最後に残されたアントワーヌのように。大人たちは彼を理解しようとしなかったし、彼もまた、大人の言葉を信じきれなかった。けれど、海を前にすると、誰かに説明する必要もないように思えた。隣にいるはずの店主は、二十年後の自分を見つめながら、黙って聞いている。

 「二十年って、長いよね。でも、あなたにとっては、きっとあっという間なんだろうな」。リュカは遠くの水平線に目を向けた。風が吹き、海面に細かな波が生まれている。未来の店主は、どんな場所で、どんな日々を過ごしているのだろう。そんなことを考えながら、彼は歩き続けた。

 リュカの隣を歩くその姿を、彼は想像していた。黒かった生地は少しずつ褪色し、摩擦を受けた肘や袖には、日々の動作が現れている。鈍い光沢が生まれ、布の表面には、着続けた人にしかわからない深みが宿っているかもしれない。「その頃のあなたは、どんな顔をしているんだろう」。問いかけても、未来の店主は答えない。ただ、同じ海を見ている。

 リュカは胸元に触れた。まだ時間の跡がない布に、これからの日々が重なっていく。完成を待つのではなく、続けることでしか辿り着けない場所がある。店主はきっと、そんなことを知っている。

 波打ち際で、リュカは立ち止まった。「ねえ、僕たちは、これからどこへ行くんだろう」。返事はなかった。遠くで波が崩れ、風がシャツの裾を揺らした。自由になりたかったのか、ただ逃げたかったのか、自分でもわからなかった。

 リュカは再び歩き始めた。波打ち際に伸びた影はひとつだけだった。まだ何も刻まれていないモールスキンに、これからの日々が重なっていく。しばらくして、ずっと黙っていた店主が、隣でふいに口を開いた気がした。気のせいだったのかもしれない。リュカは振り返らず、ただ海から吹く風の中を歩き続けた。

 「二十年後に、また会おう」

▼ この物語に登場する映画
『大人は判ってくれない』(1959年/監督:フランソワ・トリュフォー)

※ 現実にある出来事や映画、モノゴトから生まれた架空の物語です。物語とともに、お店の世界観や登場人物たちのコーディネートもあわせてお楽しみください。

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