CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十話「マルホランド・ドライブ」

CINÉMONO(シネモノガタリ)第二十話「マルホランド・ドライブ」

 店の奥で、店主がほんの少しうたた寝をしていると、遠くの方からリュカの声が聞こえた。「それ、こっちじゃない?」。振り返ったアンナは、思わず足を止めた。リュカが二人いる。二人とも同じようなシャツを着て、同じ顔でこちらを見ている。アンナは三度、まばたきをした。それでも消えない。やっぱり、二人いた。

 近づいてよく見ると、シャツはまったく同じではなかった。片方はチェックの柄が左に、もう片方は右に配置されている。襟の形も、ボタンも、デザインも違う、似て非なるシャツだった。それでも、何度見てもやっぱり二人ともリュカに見えた。アンナは首を傾げた。

 「リュカ、双子だったの?」。アンナが尋ねると、右側のリュカが「さあ」と答え、左側のリュカが「いないよ」と言った。「誰が?」「同い年の兄弟」。アンナは二人を見比べた。「でも、いるじゃない」「そうなんだけどね」。右のリュカが笑い、左のリュカも笑った。笑い方まで、ほとんど同じだった。

 そのとき、棚の奥に赤い緞帳があることに気づいた。昨日まで、そんなものはなかった。アンナが布をめくると、小さな舞台と客席が現れた。どこからともなく歌声が聞こえてくる。「クラブ・シレンシオみたい」。アンナが言うと、二人のリュカは顔を見合わせた。「静かだね」「歌ってるのにね」。その声まで重なって、少しだけおかしかった。

 歌が終わると、舞台の中央に青い鍵が落ちていた。アンナが拾い上げる。「これ、何の鍵?」。右のリュカは「知らない」と言い、左のリュカは「たぶん大事なもの」と言った。「何を開けるの?」「それは知らない」。アンナは笑った。「二人いるのに、全然役に立たないね」。二人のリュカも笑った。

 鍵の合う場所を探して、三人で店の中を歩き回った。古い引き出し、倉庫の扉、小さな箱。けれど、どこにも合わない。アンナが諦めて鍵をテーブルに置くと、二人のリュカが同時に手を伸ばした。チェックとストライプ、少しだけ違う二枚のシャツが並ぶ。「やっぱり二人いるね」とアンナが言う。二人は顔を見合わせた。「これ、どうする?」

 店の奥から、目を擦りながら、あくびをした店主が近づいてきた。アンナが振り返る。赤い緞帳も、青い鍵もない。店主はまだ眠そうな目で二人を眺め、それから小さく笑った。テーブルのパソコンには『マルホランド・ドライブ』が映ったままだった。「ちょっとだけ寝ちゃったよ」。

▼ この物語に登場する映画
『マルホランド・ドライブ』(2001年/監督:デビッド・リンチ)

※ 現実にある出来事や映画、モノゴトから生まれた架空の物語です。物語とともに、お店の世界観や登場人物たちのコーディネートもあわせてお楽しみください。

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Lucas(リュカ)コーディネート
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