自分の後ろ側を見られない

昨日、映画館で『Yi Yi(ヤンヤン 夏の想い出)』を観ました。噂に違わぬ名作で、きっと観るたびに異なる視点が立ち上がり、これからの人生の中で何度も見返すことになる映画だと感じています。人生、愛、家族、死、さまざまなテーマから深く考察できる作品ですが、ここでは少し視点を変えて、セレクトショップを営む立場として鑑賞後にふと心に残ったことを、短く書き留めておこうと思います。
日用品を扱う店を営んでいると、買い物の多くが「必要に迫られて」行われている場面に出会います。壊れたから、足りなくなったから、より便利なものを求めて。性能や機能、効率は生活に欠かせない要素ですが、一方で、個人的に強く惹かれるのは、そこから少し距離を置いた、視点に余白のあるもの選びです。
『Yi Yi』は、まさにその余白を大切にする映画でした。登場人物たちは多くを語らず、物語は明確な答えを示しません。ただ日常が静かに積み重なり、すれ違いや迷いがそのまま描かれていきます。ヤンヤンが「人は自分の後ろ側を見られない」と語り、カメラを向ける姿は、世界や人生を急いで理解しようとしない態度の象徴のように感じられました。
用途や意味を決めすぎない日用品も、それとよく似ています。どう使うか、どんな時間に寄り添うかを、使い手に委ねてくる存在。便利さの先にある、考える余地や立ち止まる時間。その余白こそが、生活を少し豊かにしてくれるのではないかと思います。
映画を観終えたあとに残る静かな余韻のように、使うたびに違う視点が生まれるもの。そんな存在を、これからも丁寧に選び、届けていきたいと改めて感じました。
2026年1月15日 晴れ