CINÉMONO vol.12
シネモノガタリ 27 August 2026
マイ・プライベート・アイダホ
(リバー)コート/
Allinone、パンツ/
Another 20th Century、鉢植え/
Arabia
「お待たせ、リュカ」
思春期になる少し前、理髪師のリバーは『マイ・プライベート・アイダホ』を観た。リバー・フェニックスが演じるマイクを見て、初めて映画を観て涙を流した。自分の居場所を探しながら孤独を抱えるマイクの姿が、言葉にできなかった自分の感覚と重なった。それ以来、リバー・フェニックスから名前をもらい、自分をリバーと名乗るようになった。
ただ、マイクになりたかったわけではない。彼なら自分の孤独を分かってくれる気がした。半地下の古い理髪店で、リバーは四十年以上、髪を切り、髭を剃ってきた。夜はジャズを演奏した。容姿やお店の佇まいから、「女性だったんですね」と驚かれることもある。けれどリバー自身、自分が男なのか女なのか、それさえよく分からなかった。鏡に映る自分を見ても、そこに男や女という答えを見つけることはできなかった。
リバーは、リュカと初めて会った日のことをよく覚えている。リュカの第一声は、「そのコート、LIFETIMEで買った?」だった。服の話からレコードの話になり、やがてジャズの話になった。そして帰り際、リバーは尋ねた。「そういえば、LIFETIMEってアンナも行く店だよね」。リュカが「アンナを知ってるの?」と聞いた。その一言で、何十年も途切れていた時間が、突然つながった。
それ以来、アンナはいつもリュカより一時間早く店に来る。リバーと二人で珈琲を飲み、レコードを聴く。昔と同じように、たいした話はしない。けれど、何十年離れていても、二人のあいだには説明のいらない時間があった。リュカが階段を下りてくると、二人は少しだけ距離を置く。そのことを、リュカは知らない。
その日もトキオはソファで眠っていた。リバーがレコードを替え、リュカが冗談を言う。リバーが珍しく声を上げて笑った。アンナはその光景を眺めていた。リュカはリバーを男とも女とも決めつけない。ただ、リバーとして見ている。それがリバーには心地いいのだろう。アンナにも分かっていた。
アンナとリバーは、見た目はまるで違うのに、笑い方や、黙っているときの癖がよく似ている。昔から、そう言われることがあった。何十年ぶりにリバーと会った今も、それは変わらない。リュカも、ときどき二人を見比べるような目をすることがある。何かに気づいているのかもしれない。けれど、リュカは何も聞かない。アンナも、何も言わない。
リバーは何も言わず、レコードの針を落とした。
※ 現実をもとにした架空の物語です。アンナとリュカは、今日もオンラインショップのどこかで活動しています。
Anna(アンナ)
43歳/160cm/56kg/脚本家/京都在住
インドからイギリスへ移住した祖父とポーランド人の祖母を持つ母と、日本人の父との間に生まれる。京都を拠点に脚本を書きながら、ドキュメンタリーや短編映像、ミュージックビデオなどの制作にも携わっている。人や街の何気ない瞬間を捉えることが好きで、特別な出来事よりも、日常の中にある光や音、表情に惹かれる。脚本を書くときには、物語だけでなく、その場の空気や映像まで自然と思い浮かべているという。流行よりも、ベーシックなものを長く愛用しており、自分の生活に自然と馴染むものを好む。京都で暮らすようになってから、撮影モデルとしてLIFETIMEに通うのが日課になっている。
Lucas(リュカ)
41歳/172cm/65kg/音楽家/京都在住
モロッコからフランスへ移住した祖母とフランス人の祖父を持つ父と、日本人の母との間に生まれる。京都で暮らしながら、ロック、テクノ、ジャズを融合させた環境音楽を制作している。音楽家としての活動はインターネット上に限られ、匿名のアーティスト名義で作品を発表している。海外にも熱心なリスナーがいるが、実際に彼の正体を知る人はほとんどいない。普段は穏やかで物静か。1950年代から1970年代に生まれたものや、その時代の空気を感じさせるものに惹かれる。服だけでなく、家具や道具、音楽に至るまで、そこに残る時代の匂いや佇まいを好む。制作の合間にLIFETIMEへ撮影モデルとして通っている。