CINÉMONO vol.7
シネモノガタリ 21 August 2026
42
(アンナ)帽子/
Decho、パーカ/
Tacoma Fuji Records、コート/
Napron、バッグ/
UTO、靴下/
Mauna Kea
(リュカ)帽子/
Decho、シャツ/
Allinone
リュカが先にコーヒーショップへ着いたのは、待ち合わせより少し早かった。店主もそこにいて、近況や店のことなど、とりとめのない話をしていた。店主はこのコーヒーショップの人間ではない。別の店を営んでいるが、こうしてリュカとコーヒーを飲むこともあった。「アンナは少し遅れるみたい」とリュカ。店主は窓の外を眺めながら、「待つ時間も悪くないね」と笑った。
しばらくして、扉が開いた。アンナが笑顔で入ってきた。黒のベースボールキャップを被り、前頭部にはシンプルな「B」のロゴ。「遅くなってごめん」と言いながら、リュカの腕を掴んだ。店主が「その帽子、いいね」と声をかけると、アンナはつばに触れて笑った。するとリュカが、「Bか。ブルックリン・ドジャースだね」と言った。
その名前を聞いて、店主は少し身を乗り出した。ジャッキー・ロビンソンがブルックリン・ドジャースでプレーし、メジャーリーグの歴史を変えたこと。リュカは映画『42』を観たことがあるかとアンナに尋ねた。店主も会話に加わりながら、ロビンソンがグラウンドだけでなく、社会そのものと闘っていた時代を思った。
昼が近づき、三人はそのままランチをすることにした。席を探していると、一人の黒人男性が「ここ、空いてるよ」と声をかけた。三人は礼を言い、そのテーブルを囲んだ。男性も昼休みらしく、サンドイッチを片手にコーヒーを飲んでいた。さっきまでジャッキー・ロビンソンの話をしていたせいか、自然と「B」の帽子に目が向いた。
「ブルックリン?」と男性がアンナに尋ねた。アンナが頷くと、男性は少年時代に父親と球場へ行った思い出を話した。リュカは『42』の話を持ち出した。そこから話は野球だけでなく、ニューヨークの街、好きな音楽、仕事、休日の過ごし方へと広がった。店主も笑いながら会話に加わった。知らない人同士だったはずなのに、いつの間にか同じテーブルで昼を過ごしていた。
窓の外では、さまざまな人が行き交っている。店主は、かつて暮らしたアパートを思い出していた。ツインタワーの近くで暮らしていたあの頃も、違う言葉や文化、肌の色を持つ人たちが、同じ街で一日を過ごしていた。「B」はブルックリン・ドジャースの記憶であり、ジャッキー・ロビンソンの物語でもある。そして今日は、アンナの帽子が会話を生み、偶然出会った男性と同じテーブルを囲むきっかけになった。店主は冷めかけたコーヒーをひと口飲んだ。人は違っていい。むしろ、違うから面白い。
※ 現実をもとにした架空の物語です。アンナとリュカは、今日もオンラインショップのどこかで活動しています。
Anna(アンナ)
43歳/160cm/56kg/脚本家/京都在住
インドからイギリスへ移住した祖父とポーランド人の祖母を持つ母と、日本人の父との間に生まれる。京都を拠点に脚本を書きながら、ドキュメンタリーや短編映像、ミュージックビデオなどの制作にも携わっている。人や街の何気ない瞬間を捉えることが好きで、特別な出来事よりも、日常の中にある光や音、表情に惹かれる。脚本を書くときには、物語だけでなく、その場の空気や映像まで自然と思い浮かべているという。流行よりも、ベーシックなものを長く愛用しており、自分の生活に自然と馴染むものを好む。京都で暮らすようになってから、撮影モデルとしてLIFETIMEに通うのが日課になっている。
Lucas(リュカ)
41歳/172cm/65kg/音楽家/京都在住
モロッコからフランスへ移住した祖母とフランス人の祖父を持つ父と、日本人の母との間に生まれる。京都で暮らしながら、ロック、テクノ、ジャズを融合させた環境音楽を制作している。音楽家としての活動はインターネット上に限られ、匿名のアーティスト名義で作品を発表している。海外にも熱心なリスナーがいるが、実際に彼の正体を知る人はほとんどいない。普段は穏やかで物静か。1950年代から1970年代に生まれたものや、その時代の空気を感じさせるものに惹かれる。服だけでなく、家具や道具、音楽に至るまで、そこに残る時代の匂いや佇まいを好む。制作の合間にLIFETIMEへ撮影モデルとして通っている。