CINÉMONO vol.6
シネモノガタリ 20 August 2026
友だちのうちはどこ?
(アンナ)シャツ・パンツ/
Napron
(リュカ)パーカ/
Another 20th Century、パンツ/
Napron
「はい、これ」アンナが一冊のノートをリュカに差し出した。「ありがとう。わざわざ持ってきてくれたんだ」リュカは笑って受け取る。二人は、小さなカフェで珈琲を飲んでいた。アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』を観たばかりで、少年が友だちのノートを返すために隣村を探し歩く姿が、まだ心に残っている。テーブルの下にはペルシャ絨毯の敷かれていた。
二人が履いているのは、色違いのペイズリー柄のパンツ。「なんだか今日、絨毯と服がつながってるね」足元では、絨毯の花模様とペイズリーの曲線が重なっている。ペイズリーは古代ペルシャやインドを起源とし、生命の樹や糸杉、豊穣を象徴するマンゴーの種などが図案化されたものといわれる。17世紀にはカシミール地方の高級ショールとして発展し、やがてヨーロッパへ渡った。
スコットランドの織物都市ペイズリーで機械織りの模造品が大量生産されたことから、その街の名前が文様の呼び名になった。ひとつの土地で生まれた柄が、海を越え、別の文化のなかで意味を変えていく。「ずいぶん遠くまで旅した柄なんだね」とアンナ。「人間より先に、世界中を旅してたのかも」とリュカが笑う。
店内では、ビートルズの『マジカル・ミステリー・ツアー』が流れていた。1960年代、インド文化に傾倒したビートルズをはじめとするアーティストたちによって、ペイズリーはヒッピーやサイケデリック・ムーブメントの象徴にもなった。宗教的な祈りから高級織物へ、そして自由や反体制のアイコンへ。「意味って、最初から決まってるわけじゃないんだね」「たぶん文化もそうなんじゃない?」そんな話をした。
イランの小さな村を舞台にした『友だちのうちはどこ?』。暮らしも文化も、二人の知る世界とは違う。「違うまま見てみるのが大事なのかもね」「わからないものを、すぐ自分の物差しで測らないってこと?」文化や宗教の違いを否定せず、まず知ろうとする。その姿勢が、知らなかった世界を教養へと変えていく。
リュカはノートをスウェットのポケットにしまった。「次は何を観ようか」「行ったことのない国の映画にしよう」。二人のペイズリーが、午後の街角へゆっくり消えていった。
※ 現実をもとにした架空の物語です。アンナとリュカは、今日もオンラインショップのどこかで活動しています。
Anna(アンナ)
43歳/160cm/56kg/脚本家/京都在住
インドからイギリスへ移住した祖父とポーランド人の祖母を持つ母と、日本人の父との間に生まれる。京都を拠点に脚本を書きながら、ドキュメンタリーや短編映像、ミュージックビデオなどの制作にも携わっている。人や街の何気ない瞬間を捉えることが好きで、特別な出来事よりも、日常の中にある光や音、表情に惹かれる。脚本を書くときには、物語だけでなく、その場の空気や映像まで自然と思い浮かべているという。流行よりも、ベーシックなものを長く愛用しており、自分の生活に自然と馴染むものを好む。京都で暮らすようになってから、撮影モデルとしてLIFETIMEに通うのが日課になっている。
Lucas(リュカ)
41歳/172cm/65kg/音楽家/京都在住
モロッコからフランスへ移住した祖母とフランス人の祖父を持つ父と、日本人の母との間に生まれる。京都で暮らしながら、ロック、テクノ、ジャズを融合させた環境音楽を制作している。音楽家としての活動はインターネット上に限られ、匿名のアーティスト名義で作品を発表している。海外にも熱心なリスナーがいるが、実際に彼の正体を知る人はほとんどいない。普段は穏やかで物静か。1950年代から1970年代に生まれたものや、その時代の空気を感じさせるものに惹かれる。服だけでなく、家具や道具、音楽に至るまで、そこに残る時代の匂いや佇まいを好む。制作の合間にLIFETIMEへ撮影モデルとして通っている。