いつかノコト vol.1
LIFETIME通信 13 August 2026
AnnaとLucas

いつからか、常連客となったAnna(アンナ)とLucas(リュカ)。店に来ると、しばらく服を眺め、試着をして、店主と他愛のない話をして帰っていく。特別な買い物をするわけでもない。ただ、二人とも妙に店に馴染んでいる。少なくとも、店主はそう記憶している。二人は昔からの友人だという。けれど、いつからの友人なのかは、二人に聞いてもよく分からない。リュカは「アンナに京都を教えてもらった」と言い、アンナは「京都を教えてくれたのはリュカのほう」と言う。どちらが正しいのか、本人たちも気にしていない。
ある日、リュカが店にやってきた。「新しいのができたから、聴いてみて」と、一曲の音楽を流した。店主は何気なく聴いていた。曲の途中で、ふと手が止まった。聞き覚えがある。正確には、今朝、店主が自宅でギターを爪弾いたフレーズだった。まだ誰にも聴かせていない。録音もしていない。
「……でも、僕が作ったことになってる」リュカはそう言った。その日の閉店後、店主は防犯カメラを確認した。音源を聴いた日に、リュカが店に来た記録はなかった。それどころか、リュカが来たはずの日の映像をいくつか確認すると、そこには店主ひとりしか映っていない日があった。それでも、店主にはリュカと話した記憶がある。
「昨日、リュカと一緒に来たじゃない」アンナにそう言われたこともある。だから、きっと来ていたのだと思う。ある日、アンナが店にやってきた。「ちょっと書きたいものがあるから」と、店の隅でしばらくノートを開いていた。帰り際、アンナはノートを店主に差し出した。「これ、預かっておいて。私が持ってると、続きを書いちゃいそうだから。私がいないときにでも、読んでおいて」そう言って、アンナは店を出ていった。数日後、店主はアンナが置いていったノートを読んだ。そこには、お店のことが書かれていた。まだ誰にも話していない出来事。これから入荷するはずの服。そして、店の奥に座って音楽を聴いているリュカのこと。
それ以来、店主はときどき不思議に思うことがある。リュカとアンナが来た翌日には、店のどこかに必ず何かが残っている。一枚の写真。聴いたことのない音楽。誰かが置いていった古い本。そして、ときどき……
二人が着ていた服のことを、妙に鮮明に覚えている。だから今日も、二人分の椅子を用意している。来るかどうかは、分からない。
※ 現実をもとにした架空の物語です。アンナとリュカは、今日もオンラインショップのどこかで活動しています。
Anna(アンナ)
1985年生まれ/160cm/56kg/脚本家/京都在住
インドからイギリスへ移住した祖父とポーランド人の祖母を持つ母と、日本人の父との間に生まれる。京都を拠点に脚本を書きながら、ドキュメンタリーや短編映像、ミュージックビデオなどの制作にも携わっている。人や街の何気ない瞬間を捉えることが好きで、特別な出来事よりも、日常の中にある光や音、表情に惹かれる。脚本を書くときには、物語だけでなく、その場の空気や映像まで自然と思い浮かべているという。流行よりも、ベーシックなものを長く愛用しており、自分の生活に自然と馴染むものを好む。京都で暮らすようになってから、撮影モデルとしてLIFETIMEに通うのが日課になっている。
Lucas(リュカ)
1985年生まれ/172cm/65kg/音楽家/京都在住
モロッコからフランスへ移住した祖母とフランス人の祖父を持つ父と、日本人の母との間に生まれる。京都で暮らしながら、ロック、テクノ、ジャズを融合させた環境音楽を制作している。音楽家としての活動はインターネット上に限られ、匿名のアーティスト名義で作品を発表している。海外にも熱心なリスナーがいるが、実際に彼の正体を知る人はほとんどいない。普段は穏やかで物静か。1950年代から1970年代に生まれたものや、その時代の空気を感じさせるものに惹かれる。服だけでなく、家具や道具、音楽に至るまで、そこに残る時代の匂いや佇まいを好む。制作の合間にLIFETIMEへ撮影モデルとして通っている。