CINÉMONO(シネモノガタリ)第十五話「ファニーとアレクサンデル」

CINÉMONO(シネモノガタリ)第十五話「ファニーとアレクサンデル」

 アンナは書店で、リュカが好きな雑誌『GINZA』の特別編集本を見つけた。『心地良い部屋、毎日の定番』。表紙を見て、なんとなく手に取り、そのまま買って帰った。「おしゃれな人が使っている日用品、だって」部屋に戻ると、ソファに座っていたリュカが「同じの買ったよ」。二人でページをめくっていると、アンナの手があるページで止まった。「あれ?LIFETIMEの店主さんが入ってるよ」

 そこには、店主の愛用品が紹介されていた。「なにを紹介しのかな?」とリュカが言う。「でもさ、雑誌『GINZA』に店主の愛用品が載るなんて、なんか不思議」アンナは少し首をかしげた。「店主さん、おしゃれなの?」「怪しいね〜」リュカが笑う。「そもそも、おしゃれって何なの?」その言葉に、二人はしばらく黙った。

 「おしゃれな映画は?」とアンナが聞いた。「ファニーとアレクサンデル」とリュカはすぐに答えた。「おしゃれなミュージシャンは?」「トーキング・ヘッズ」「即答だね」アンナは少し笑った。「そういえば、LIFETIMEっていう店の名前も、たしかトーキング・ヘッズの曲からなんだよね」「うん。店主さん、ずいぶん長いあいだ好きなんじゃないかな」

 おしゃれな人って、どんな人なんだろう。流行をよく知っている人。服を上手に着こなす人。高価なものや珍しいものを持っている人。「いや、きっと違う。それは、おしゃれに憧れている人だよ」とリュカが言った。本当におしゃれな人は、たくさんのものを見て、いろんなことを経験してきた人なのかもしれない。経験の深さがあり、ものを見る視野が広い。それでいて、どこかウィットに富み、少しだけ皮肉もある。

 何に惹かれ、何に違和感を覚えるのか。「これが好き」「これは、なんか違う」。何を選ぶかと同じくらい、何を選ばないかも大切なのだろう。そんな小さな選択を長い時間かけて繰り返すうち、その人らしい「選び方」ができあがっていく。本人は、おしゃれになろうとしているわけではなく、ただ自分が好きなものを選んでいるだけなのかもしれない。

 二人は、もう一度『GINZA』のページを開いた。そこには、店主が選んだ五つの愛用品が載っていた。「店主さん、いつもGINZA好きって言ってるから、喜んでるね、きっと」「うん。でも平気な顔してると思うけど」「ほんとは?」「かなり喜んでる」二人は顔を見合わせて笑った。好きで長いあいだ選んできたものを、誰かがふと見つけてくれた。今回の掲載は、店主にとって、案外そんな出来事なのかもしれなかった。

▼ この物語に登場する映画
『ファニーとアレクサンデル』(1982年/監督:イングマール・ベルイマン)

※ 現実にある出来事や映画、モノゴトから生まれた架空の物語です。物語とともに、お店の世界観や登場人物たちのコーディネートもあわせてお楽しみください。

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