CINÉMONO vol.13
シネモノガタリ 1 September 2026
レナードの朝
(父)帽子/
Napron、シャツ・パンツ/
Sassafras、シャベル/
Spear&Jackson
「『レナードの朝』って、観たことある?」アンナが店の奥を見ながら言った。「眠っていた人が、ある朝、目を覚ます映画」リュカは頷いた。「目を覚ましても、眠っていた時間は戻ってこない。そこが、なんだか切ないんだよね」二人はそんな話をしながら、店の奥に飾られた一枚の写真の前に立った。写っているのは、店主の父親だった。
「生きていたら、84歳なんだって」アンナが言う。リュカは写真をじっと見た。少し照れたような顔をしている。着ているのはササフラスだった。「これ、お父さんも着てたんだね」「ファッションには、ほとんど興味がなかったらしいよ」とリュカが笑う。それでも、息子の店で扱っている服を着ている。「きっと、嬉しかったんじゃない?」アンナが言った。リュカは微笑んだ。
「店主さん、親父さんの家庭菜園を手伝ってたんだって。それが店を始めるきっかけになったらしいよ」リュカは写真の隅に写った園芸道具に目を留めた。たかが遊びの家庭菜園なのに、わざわざイギリスから取り寄せていたらしい。「ずいぶん凝ってたんだね」とアンナが笑う。リュカは写真の中の父親をもう一度見て、「あの店主らしいな」と言った。
「亡くなって、七年だって」アンナが言った。リュカは写真から目を離さなかった。「親父さんには、何でも話してたって」店のこと、仕事のこと、これからのこと。大事な話だけではなく、どうでもいい話もしたのだろう。アンナは写真を見ながら、「そういう相手って、いなくなってから大きさがわかるのかもね」と呟いた。
少しずつ写真に似てきてた。昔なら簡単だったことが、そうでもなくなってくる。自分ではどうにもならないことも増えてくる。そんなとき、親父なら、なんて言うかな、と。何かを教えてほしいわけではない。答えが欲しいわけでもない。ただ一度だけ、もう一度だけ、向かいに座って、昔みたいに他愛のない話でもしながら、時間を気にせずゆっくり話ができたら。そんなことを、ふと思う。
窓の外が少しずつ明るくなっていた。「あの映画を観ると、朝って、ただ一日が始まるだけじゃないんだなって思う」アンナが言う。リュカは写真を振り返った。二人はしばらく、その写真の前にいた。朝の光が、少しずつ店の中に入り込んでくる。七年という時間は戻らない。それでも朝は来る。新しい一日が始まるたび、もう会えない人のことを思い出すこともある。もし、もう一度だけ話せる朝が来たなら、今度は急がない。話すことがなくなってもいい。ただ、そこにいて、ゆっくり話す。朝の光が穏やかな日だった。
※ 現実をもとにした架空の物語です。アンナとリュカは、今日もオンラインショップのどこかで活動しています。
Anna(アンナ)
43歳/160cm/56kg/脚本家/京都在住
インドからイギリスへ移住した祖父とポーランド人の祖母を持つ母と、日本人の父との間に生まれる。京都を拠点に脚本を書きながら、ドキュメンタリーや短編映像、ミュージックビデオなどの制作にも携わっている。人や街の何気ない瞬間を捉えることが好きで、特別な出来事よりも、日常の中にある光や音、表情に惹かれる。脚本を書くときには、物語だけでなく、その場の空気や映像まで自然と思い浮かべているという。流行よりも、ベーシックなものを長く愛用しており、自分の生活に自然と馴染むものを好む。京都で暮らすようになってから、撮影モデルとしてLIFETIMEに通うのが日課になっている。
Lucas(リュカ)
41歳/172cm/65kg/音楽家/京都在住
モロッコからフランスへ移住した祖母とフランス人の祖父を持つ父と、日本人の母との間に生まれる。京都で暮らしながら、ロック、テクノ、ジャズを融合させた環境音楽を制作している。音楽家としての活動はインターネット上に限られ、匿名のアーティスト名義で作品を発表している。海外にも熱心なリスナーがいるが、実際に彼の正体を知る人はほとんどいない。普段は穏やかで物静か。1950年代から1970年代に生まれたものや、その時代の空気を感じさせるものに惹かれる。服だけでなく、家具や道具、音楽に至るまで、そこに残る時代の匂いや佇まいを好む。制作の合間にLIFETIMEへ撮影モデルとして通っている。